23回    2008Oct.02.     金子信造

       A下肢

 哺乳類の足の形態と機能は3種類に分類できる。

 第一は蹠行性であり、かかとが残り、その歩き方はゆったりして安定性があるが、早くはない。ヒト、サル、ヤマアラシ、クマなどがはいる。

 第2は趾行性であり、かかとはつかず、足指だけで立つ、歩行速度は前者よりは早い。

イヌ、ネコ、ネズミなどである。

 第3は蹄行性であり、足指のつま先で立って歩き、特に疾走時は早い。ウマ、ウシ、シカなどである。

 ウマは地上のロコモーションを完成させたものといわれる。疾走時にもウマの背骨はほとんど屈伸しない。疾走速度も持続性も際立っている。その点、短距離でダッシュのきく、イヌ、ネコなどは疾走時には体幹の筋肉もかなり協力的に活動する。四肢が前進運動器として分化独立をはたしていないからである。

 ヒトは直立二本立ちとなり、前進運動器は下肢だけとなり、上肢は歩行時、走行時に交互に振るが、必ず振らなければならないものでもなく、上肢は手という環境作働器となった。

 四足の哺乳類は身体の前半身に重心がよって、後足は前に倒れかかる力が働いているが、四足ならつま先立ちでも前後に倒れることはない。

 ヒトの足(足首から先の部分)は哺乳類の中では特異な形をしている、全体に対して踵が大きく、足の平に対して指が短く、掴む能力はほとんど退化している。指の骨を指骨、足の平の骨を中足骨、踵周辺骨を足根骨とよび、この三つでアーチを造(土踏まずを造り)って、静止して立つとき、体重は中足骨の前のほうと踵の二か所に分散している。歩くときは、膝の皿から発している腓腹筋につながるアキレス腱で回内、回外させ前進のあおりをおこし、重力は踵から小指側を通り親指、中指とその付け根(拇指球)へと移り、蹴り進む。(足うらの重心の移動や脊椎動物のロコモーションの大原則である躯幹部S字状運動<ヒトなら足と交互に手を振ること>など、平沢弥一郎教授<東京工業大学>の足のうらの研究をはじめ、多くの研究が積み重ねられているのに、これらが武術や運動技術関連図書でみると重心移動や手足の逆位相の問題などに生かされていないようである。なんば歩きについてやがて触れる機会にこのことを取り上げる)

 脊椎動物が陸にあがって四つ足になって以来、重力は腹から地球の中心へ向かっていたが、ヒトは直立したので、重力は頭から下肢へとなった。四足なら胴体内の臓器は背中から幕で吊り腹側で受け止めるが、ヒトでは胸、腹から腰へ落ち込むので、これを骨盤をひろげて受ける。骨盤は腸骨、恥骨、坐骨の3っの骨が癒合した腰の骨のことである。

 サルでは背骨に平行に伸びている骨盤も、ヒトでは背骨とともに垂直に立てている。

 ヒトの直立した大腿骨の位置は、四足動物なら後ろへ蹴りあげたときの位置となる。ヒトが歩くには、さらにそこから後ろへ蹴ることになる。そのためヒトは大腿骨が骨盤から脱臼しないよう、大腿骨のはまり込む股関節の窪みが深く、腸骨の背中側から大腿骨の後面を結ぶ大殿筋で、垂直な体軸からさらに後ろへ蹴ることができるようになっている。

 四足動物では地面に平行な骨盤から大腿骨を後ろへ引くには、坐骨から発する大腿二頭筋がはたらくが、ヒトでは坐骨と大腿二頭筋を結んでも、後ろへ引く力は得られない。これらの大腿の後ろ側に対し,前側は腸骨から脛骨粗面に付着している大腿四頭筋という膝関節の伸展作用をもつ強力な筋肉があり伸筋として働き、これに対して大腿二頭筋が屈筋として、たがいに拮抗的に働き、蹴ることができる。これらの筋肉は外から観察でき、触ることもできる。

 ヒトの骨盤は側方へも張り出し、大殿筋の隣を走る中殿筋が、骨盤の側面に起始点をもち大腿骨の外側に結んで、股を開くことができる。これが大腿骨に複雑な運動を起こさせ左右方向のバランスを、股関節周辺でコントロールしている。

ヒトが吊身で天頂と地軸を結ぶ線に、頭頂と肛門を結ぶ線を合わせようとすれば、正中線(中心軸)を意識する。このとき中心軸である脊椎、腰椎からほぼ平行に左右の大腿骨をぶら下げているのが腸腰筋(大腰筋、小腰筋、腸骨筋)である。これは外からは見えも触れもできないが、これこそが他をリードして働く主導筋である。

 

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