春 爛 漫
今年の桜は、予測が出来ないほど速かった。ぽかぽか陽気に誘われて、あっという間に満開である。
これが幸いして、今年は、無理だろうと思われていた「会の花見」が、3月24日(日)の稽古後、
急遽行われることになり、私も初めて参加させてもらうことになった。
武道場のすぐ裏の土手が、会場となり、集合時間の12時半頃には、参加者の多くが集まっていて、宴会部長と呼ばれ、はばからない伊東さんが買って来る食料の到着を、今遅しと待っている。まもなく、一条さんをひきつれた伊東さんが、2台の自転車いっぱいに食料を調達して帰ってきた。待ち受けた何人かが、手慣れた様子で、テキパキと事を進め、ビールやら、酎ハイやら、おつまみやらを、所狭しと並べ、宴会が始まった。
ふと気がつくと、参加者十数人の中で、ルーキー君は私一人である。少々肩身の狭い感じがしたが、
一杯目の缶ビールを飲み干す頃には、すっかり忘れてしまっていた。というのも、私の両脇は、本日の参加者が3人と、数少ない女性のうちの二人が、隣り合わせとなったからだ。俗に言う《両手に花》である。二人の女性武道家は、共に7〜8年のキャリアを持つベテランである。良きアドバイス等、あれや、これやと、話が進む。
暫くするうちに、私は、3人ぐらい右隣で座っている加納さんが、自分のすぐ横にカメラを置いているのに気がついた。二コンの高そうなカメラである。無造作に置いているようだが、ひじょに大事そうにしているようだ。やがて、宴もたけなわになる頃、そのカメラで皆を撮り始めた。撮り方も素人ぽくない。大変慣れていて、かっこよい。そして、いつも稽古で、教えてもらっている時の雰囲気と全く違う。人間は一元的に生きているのではないから、いくつもの顔があってしかるべきだが、不器用な私からみると、大変多才に映る。一通り、みんなの写真を撮ると、颯爽と帰っていた加納さんが、いつもと違った人に感じられた。
  このところの気候に比べ、この日は、やや肌寒さを感じるが、私達の陣取っている場所は暖かい。 
だから、ほろ酔い加減の林会長は、春の日差しの中で、心地よい眠りに入っている。
ゆっくりとした時間が流れ、向こうの広場から、子供達の大声が響いてくる。
宴は粛々と進んで行く。私の正面近くに座っている有段者の面々は、いつもは厳しい顔で稽古に臨んでいるが、今日は、まるで別人のようである。表現しがたいが、失礼な言い方をすれば、にこやかな普通のおじさんといったところかもしれない。
でもよく考えてみると、日常においても、私達の会の有段者は、あまり、いかにも、猛者というような人はいない。他の武道にはそれらしき人がいるものだが。きっと、合気道という武道が、争うことや攻撃することを前提にしない教えであり、猛者たるところを、内に秘めた、奥ゆかしさ、奥深さのある武道であるがゆえではないか思うし、それを、極めている人ほど、身についているのではないかと勝手に解釈してしまう。
それぞれ、思い思いの武道談義にも花が咲き、有意義な一日が静かに過ぎて行く。

昼間の酒は、効きが早い。 そろそろ、お開きの時間である。会長もしばしの眠りから醒めたようだ。
全員で記念撮影の後、残り物を田村さんが大事そうに袋に詰めてたところで、すべてがかたずいた。
春の日差しが、中川に反射してまぶしい。
それぞれ、帰路につく私達の後ろで さわやかな春風に乗って,また一つ、花びらが舞う.

                   春 爛 漫
岩瀬康夫


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